結婚

8. 離婚1 結婚式の最中

結婚式の最中に、離婚を考え始めた男性がいました。
夢中で結婚式までこぎつけたのは良かったけれど、たくさんの参列者を見た時、
自分が結婚しようとしている現実に驚き、恐ろしくなった、のですって。

本当に、こんなに人が集まってしまった、どうしよう。
結婚を頭でわかっていても、現実が迫ったら、違う、違う、 俺はまだ結婚したくなかったんだ、本心は。
彼女は好きだけれど、でも、こんな風に大勢の人に迫られて、 家庭に閉じ込められるのは厭だ。
結婚式に向かってあれこれ計画していた時と、 今と、何でこんなに気持ちが違うんだろう。
なぜ、自分の気持ちがわからなかったんだろう。
俺は馬鹿だ、本物馬鹿者だ。
でも、どうするんだよ、皆を集めてしまってさ。
今日の式は何とか済ませたとして、新婚旅行か。
新婚旅行へ行ったら、気持ちが変わるかなあ。
いや、駄目だ、変わらない。
今初めて、はっきり自分の思っていることがわかった。
駄目だ結婚は出来ない。
でもここまで来ちゃったんだから、一応結婚はして、離婚するっきゃないな。
離婚か。
難しそうだな。
彼女に何て言えばいいんだ。
嫌いじゃあないけど、結婚生活は出来ないなんて、分かってくれないよな。
いやあ、参ったぜ、一生の大失敗だ。 皆に迷惑かけて、第一格好悪くって、もう、参った参った。
ごめんなさいって言って、今この部屋から逃げ出しちゃおうかな。
あとが大騒ぎになるだろうな。
もう誰も親だってつきあっちゃくれないな、勘当か。
ああ、しゃあない、とりあえず今日のところは結婚しておこう。
で、生活が始まってから海老みたいにずんずん後ろ向きに逃げる。
そうだ、どこか遠い所へ逃げよう。
今月? 来月? 再来月か?
ああ、俺は自分でも、こんな恐ろしい馬鹿者とは気づかなかった。
今度こそ、本気に離婚を皆に頼むかな、手を突いて、済みませんでしたって。

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