6. 恋--既婚女性の恋
若い恋人達が心から楽しそうに、青春を謳歌している。
彼らは、お互いに独身者、恋におちるのに何の障害もない。
しかし、行く先をいくつもの障害に立ち塞がれ苦しんでいる恋人たちもいる。
独身男性と既婚女性との恋。
既婚男性と既婚女性の恋。
どちらも、障害がある恋だけれど、不倫ではない。
人の道を外れた恋ではない、ということだ。
独身男性と既婚女性の間に起きた恋は、なぜ不倫ではないのだろうか。
既婚女性と既婚男性の間の恋も不倫ではないのはなぜ。
どちらも、自己満足のために人を裏切ろうとしていないから不倫ではないのだ。
これら恋からは、毒花の妖艶さも香りも漂ってこない。
本物の恋だからである。
自己満足のために、関係のない人間を貶めようとしていない。
恋のために、自分の立場を有利にしようとしていない。
しかし、独身者同士の様に、手放しで喜べない恋。
素晴らしく幸せになれたけれど、同時に深い苦しみと悩みも持った恋だ。
その苦しみは、恋の幸せが、他の人の苦しみを土台にしていると思えるから。
自分の周りの人たち、相手の周りの人たちの苦しみを、
どうして優越感を持って笑えるだろう。
出来る事なら、誰をも傷つけることなく、恋を育てたい。
しかし、それは無理だと、二人とも理解している。
この恋は、お互いの平和を壊し、みんなの人生を変えてしまうだろう。
では、恋を終らせるしかないのか。
そう、それが一番、お互いに大人なのだから、理性を持って…。
お互いの家庭の平和を護るため、恋を終わらせよう。
別れを決めた二人の涙で池が溢れても、恋を終わらせる力にはならなかった。
何回挑戦しても、別れられないと知った二人は、途方に暮れる。
一緒にこの世から消えてしまおうか。
でも、待って。
恋が始まった事実こそが、自然の姿だったことに気づきなさい。
そして恋が起きた事実を消し去ることは出来ないことも。
家庭を持っている二人が、なぜ恋する同士になったのか。
それは、お互いの家庭という容の内部に、表に見えない亀裂があったから。
涙で恋を終わらせても、表に見えていない亀裂の存在は消えはしない。
それは、恋が発生するよりもずっと以前からあった現実なのだから。
なんということなんだ。
自分達が初めて見つけた幸せは、眼に見えなかった亀裂が原因だったなんて。
もしそうだとしても、自分たちの恋のために、みんなの生活を脅かすのは嫌だ。
何も変えずに、恋だけを育てることは出来ないのだろうか。
何回考え直しても、自然を変える事は出来ないのだから、考えは堂々巡り。
有効期限が切れた機械のようだった家庭は、どうやっても崩壊する運命だった。
いくら、外壁を繕っても、内部の崩壊は止まらない古家と同じ状態だ。
では、恋がなくても、いつかは崩壊したということなのか。
そういうこと。
実は、崩壊の原因がない所では、新しい恋は芽生えないのだ。
恋が芽生えたから、亀裂の存在が誰の眼にも見えた。
この亀裂から崩壊へ向かう勢いは、もう止められないところまで進んでいる。
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Mizuho Mi Suguri